• english
  • 日本語
  • language

研究テーマ                      目次へ

  • 1. 新しい止血材、癒着防止材の開発
  • 2. 人工遺伝子治療システムの開発
  • 3. 遺伝子改変による新規エクソソーム製剤の開発
  • 4. 改良ウィルス型遺伝子治療システムの開発

  • 1. 新しい止血材、癒着防止材の開発
<緒言>
 現在動物性タンパクを主原料とした局所止血材が広く使用されているが、感染や免疫原性の危険が完全に除去されてはいない。より安全な製剤として天然多糖由来のものも利用されているのが、接着性が低く、効果は限られている。
 我々は、安全で効果が高く、使い勝手の良い止血材を得るために、医薬品添加物として認可された高分子材料のみを使用して、患部に当てたときにすぐに柔軟なゲルとなって粘着する、新しいタイプの止血材の開発に成功した。

これらは、
・安全性の保証された、医薬品添加物として認可された原料のみからなり、生理条件下で完全に解離・溶解し、炎症性が無く、治癒を妨げない生体不活性な材料である
・複雑な患部の形状に適応できる、柔軟なフィルム状または柔らかいスポンジ(綿)状である
・生理反応を惹起して凝結させるのではなく、患部に密着して物理的に封じて止血する
といった特長を持つ。

  • 1-1: 止血フィルムの開発
  • 1-1-1: 新規組織接着性フィルム
 ポリアクリル酸(PAA)とポリビニルピロリドン(PVP)を主原料として、これらの溶液を特殊な条件下で混合することにより、無色透明の柔軟なフィルムを得た。
ポリアクリル酸(PAA)とポリビニルピロリドン(PVP)を主原料としたフィルム
これらは、水吸って膨潤し、柔らかな水和ゲルを形成した。
水吸って膨潤し、柔らかな水和ゲルへ変化

また、湿った生体組織に載せると、組織の水分を吸って柔らかなゲルとなり、組織に強く粘着した。

湿潤組織上でゲル化し強く粘着

1-1-2: 臨床研究
 ガーゼ上で調製したフィルムを用いて、抗凝血剤を服用している患者の採血後、あるいはCT造影剤投与後の止血を試みた。針を抜いた後、フィルムを軽くあてるだけで、強く圧迫することもなく完全に止血された。
51歳 女性 ワーファリン服用CT造影剤投与後の止血
73歳 女性(ワーファリン服用)

  • 1-2: 止血スポンジの開発
  • 1-2-1: 新規組織接着性スポンジ
 ポリアクリル酸(PAA)とポリビニルピロリドン(PVP)を主原料として、これらの溶液を特殊な条件下で混合し、凍結乾燥することにより、白色の綿状のスポンジを得た。これらは水吸って膨潤し、柔らかな水和ゲルを形成した。


1-2-2: 臨床研究
 綿状スポンジによる抜歯後の止血を試みた。抜歯窩にスポンジを入れると速やかに血液を吸ってゲル状になり、組織に張り付いて止血した。抗血液凝固剤を服用している患者においても、強く圧迫することもなく速やかに止血がなされた。
87歳 男性(プラビックス服用)

  • 1-3: 癒着防止ゲルの開発
 1-2で述べた生体接着性のゲルについて、これらを手術後に使用すると、高い癒着防止効果が得られることを、動物実験により確認した。

癒着モデル:盲腸表面を加熱後、体内に戻す



  • 2. 人工遺伝子治療システムの開発

<緒言>
・ウィルス型遺伝子治療システムの問題点
 ヒトの遺伝子治療において、様々なウィルスを用いた遺伝子導入システムが開発され、一部の臨床治験では、高い治癒効果が報告されている。
 しかし、1999年米国のアデノウイルス製剤による死亡事故をはじめ、2001年(仏)、2007年(英)のレトロウイルス製剤による白血病様症状の発症、2007年には米国でアデノ随伴ウィルスの投与直後の被験者の死亡など、重大な副作用が報告され、ウィルスベクターの安全性が問題となっている。
・非ウィルス型遺伝子治療システムの問題点
 そこでこれらにかわる安全な非ウィルス型遺伝子治療システムが求められ、広く研究されてきた。中でもDNAと静電的に接着するポリカチオンやカチオン性脂質を用いたDNA複合体システムの開発が精力的に進められており、臨床研究に供されたものもある。
 しかし、これらのDNA複合体は培養細胞では高い遺伝子発現を既に実現しているものもあるが、生体内での発現は極めて低い。そのため、人工遺伝子導入システムの臨床応用は、未だ挑戦の域を出ていない。
 従来のDNA/ポリカチオン(カチオン性脂質)複合体が生体内で発現しない主な理由として、次の二点が考えられる。
(i)DNA複合体と生体組織との非特異的な相互作用
(ii)DNA複合体の大きすぎる粒子サイズ
これらの原因によって、投与されたDNA複合体の標的細胞に到達・接着するまでのデリバリー効率が極めて低いものと思われる。

  • 2-1: 生体内で高発現するDNA複合体システムの開発
 我々は、(i) の生体との非特異的な相互作用を防ぐために、DNA複合体をヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などによる保護コーティングする手法を開発した。これらの保護コーティングにより、生体成分との非特異的な副作用が大きく抑制された。
 もう一つの障壁である、(ii) の複合体サイズの問題は、これまで有効な解決手段がなかった。我々は、特殊な条件下で保護コーティングしたDNA複合体が凍結乾燥・再水和後もその活性を維持することを発見し、この技術を応用して、希薄な条件下で得た微小な複合体粒子をそのまま濃縮し、極微小な核酸複合体の安定な濃厚分散液を得ることに初めて成功した。
 このようにして得られた生体との副作用のない極微小なDNA複合体は、生体の静脈内、あるいは腫瘍局所内に投与後、腫瘍組織内において極めて高い遺伝子発現を示した。

腫瘍組織内で導入遺伝子を高発現させた!

  • 2-2: 高発現DNA複合体システムによる癌治療効果
<担癌モデル動物における治癒効果>
 腫瘍組織内で高発現するDNA複合体システムが得られたので、免疫活性化サイトカインであるGM-CSF遺伝子をコードしたDNAを用いて上述の小さな複合体を調製し、実際に担癌モデルマウスにおける治癒効果を調べた。
 下図のように、GM-CSF遺伝子をコードしたDNA複合体を投与したマウスでは、腫瘍が完全に消滅し、120日以上経過しても再発は見られず、このような極微小なDNA複合体の高い治癒効果が確認された。

DNA複合体の局所投与で6mm以上の腫瘍(メラノーマ)が消滅した。

<動物臨床研究>
 小動物での治癒効果、安全性が確認されたので、イヌ、ネコの原発性の癌に対する治癒効果を、動物病院における臨床研究により検討した。
 免疫活性化サイトカインの遺伝子をコードしたDNA複合体はほとんどの症例で顕著な腫瘍の縮小効果を引き出し、このようなDNA複合体システムは、治癒が難しい原発性の腫瘍に対しても、高い治療効果を示すことが確認された。

血管周皮腫に対する治療効果イヌ; ♂,12才

  • 2-3: 治癒効果の高い抗腫瘍免疫治療システムの開発
 生体内で自然発生したガン細胞は、そのほとんどが免疫システムによって退治される。しかし、まれに免疫の監視システムを回避するものが現れて増殖すると癌が発症する。すなわち、確立した腫瘍組織は、多くの場合すでに免疫による攻撃を逃れる手段を獲得している。
 これらの強敵を退治するには、ただ免疫を強化するだけではしばしば不十分であると考えた。そこで、免疫を回避しているガン細胞が、再び免疫系の監視網にかかるようにするため、微生物由来の強い抗原タンパクをガン細胞に発現させることを試みた。
<結核菌遺伝子による癌治療>
 抗原性の高い結核菌のタンパクの遺伝子をガン細胞に投与すると、腫瘍の増殖は著しく抑制された。結核菌の目印を表面に提示しているガン細胞を、免疫系が新たな敵として認識し、免疫システムのスイッチを入れたものと思われる。
<動物臨床研究>
 結核菌遺伝子による免疫治療は、動物臨床研究において、原発性の腫瘍に対しても高い治療効果を示した。

結核菌遺伝子を用いた癌治療 肛門周囲腺腫(イヌ:13歳 ♂)
<インターフェロン誘導因子による免疫治療>
 抗腫瘍免疫を誘導するためのもう一つの方法として、I型インターフェロンの分泌を強く導くアデノウイルス由来の低分子核酸、「VA-RNA-I」に着目した。VA-RNA-IをコードしたDNAを作製し、担癌マウスに投与すると、著しい抗腫瘍効果が確認された。



  • 3. 遺伝子改変による新規細胞外小胞(エクソソーム)製剤の開発
 結核菌タンパク遺伝子を用いた遺伝子治療の免疫活性化メカニズムとして、結核菌抗原遺伝子を導入した腫瘍細胞が抗原タンパクを含んだ細胞外小胞を分泌し、それが媒介して抗腫瘍細胞性免疫を惹起すると考えた。そこで培養腫瘍細胞に結核菌抗原遺伝子を導入して、分泌された細胞外小胞を採取・単離して担癌マウスに投与したところ期待された通り著しい腫瘍の生長抑制が観察された。核酸や遺伝子を直接生体に投与しないこの手法は、安全な治療法として期待される。
 さらにより安全性の高い治療システムとして、培養樹状細胞にex vivoで結核菌抗原含有細胞外小胞を加え、活性化した樹状細胞をマウスに投与すると顕著な抗腫瘍効果が観察された。

 VA-RNA-Iを内包した細胞外小胞についてもその抗腫瘍効果を調べた。培養細胞を用いて同様に調製し、担癌モデルマウスに投与したところ、著しい抗腫瘍効果が確認された。


  • 4. 改良ウィルス型遺伝子治療システムの開発
<緒言>
 これまでヒトの遺伝子治療は、その多くがウィルスをベクター(運搬体)として用いて試みられてきた。一部のものはその効果が確認され、2003年にp53遺伝子挿入ウィルス製剤(Gendicine)が中国FDAに承認されたのを始め、様々なものがヒトの臨床で使用され、また試されている。
 ウィルス型遺伝子導入システムは、培養細胞上では非常に高い感染効率、遺伝子導入発現効率を示す。しかし、生体内では抗体による中和のため、その効果は著しく低減される。また、ウィルス本来の毒性や高い肝集積性のために、投与経路や投与量は厳しく制限される。
<改良ウィルス型遺伝子治療製剤の開発>
 我々は、ウィルスの表面を高分子複合体からなる多重層でコーティングすることで、抗体による不活化を抑制して高い治癒効果を発揮し、かつ副作用の少ない、新しい半合成ハイブリット型のウィルス製剤を開発した。
ウイルスポリマーの多重層コーティング

 これらのポリマーコーティングウィルスは、担癌モデルマウスにおいて、著しく高い抗腫瘍効果を示した。

コントロールとポリマーコーティングウイルス投与の比較

                                      トップへ戻る